安西水丸といえば、人気エッセイ「村上朝日堂」シリーズをはじめとする村上春樹の著作での挿絵が印象に残っている方が多いはず。味わいのあるドローイングから、少しはみ出した手塗りの風合いが温かいイラストレーションは、時代・世代を超えて永く愛されてきました。
1971年に平凡社へアートディレクターとして入社後、1974年に漫画雑誌『ガロ』に初めて掲載した「怪人2十面相の墓」の原作者・嵐山光三郎と出会います。1979年にペーター佐藤、原田治、新谷雅弘らと「パレットクラブ」を結成。この頃、ジャズ喫茶を営んでいた村上春樹と出会います。1981年には安西水丸事務所を立ち上げ、イラストレーターとして本格的に活動を始めます。
本作は、そんな安西水丸が1987〜1991年にかけて個展のために制作したシルクスクリーン作品を初めて書籍化したもの。『On the Table』のタイトルどおり、静かなテーブルのうえに広がるいつかの風景を製作年順に収録しています。
1987年開催の「SILK SCREEN」展に合わせて発表した「兵隊とリンゴ」と「マティスのカード」は、まるで安西水丸の生活を覗いているよう。
同年開催「二色」展より、タイトル不詳の3作品。モチーフには女性らしさを感じるかわいいものを選びながら、色数を絞ることでシックでまとまった印象を受けます。
1988 年開催の「VIEW」展より「草と木と町」。「二色」展に引き続き少ない色で表現しながら、大きな作品に挑戦しています。
1991 年開催の『ALWAYS』展より、「中国人形」と「人魚と皿とマトリョーシカ」。色数も多くなり、色使いも鮮やかになっています。制作年や個展のテーマごとの違いも見どころのひとつ。
特筆したいのは、雑誌『POPEYE』のアートディレクターとして活躍する前田晃伸によるブックデザイン。印刷に高彩度インキを使用し、シルクスクリーン独特の透明感のある発色に近づけています。鮮やかな青の表紙クロスは、著作「青の時代」「青インクの東京地図」と青にゆかりのある安西水丸の作品集にふさわしい色といえるでしょう。
背表紙には、これはシルクスクリーンに記されていたサインを抜き出して箔押し。
鮮やかな本とイラストが呼び起こす、いつか見たテーブルの上の風景。開いたページからは、ほのかにノスタルジーが漂います。シンプルなドローイングの隙間に見え隠れする、描かれたシーンの前後のストーリーにも思いを巡らせてみてください。