Ilustration by Shiori Hasegawa

Column_No. 12
ビートニクの時代 〜 禅、LSD、詩、ヒップスター II

前回は、「ビートニク」のご紹介をしました。ビートニクの根底にあるのは、「スクウェア」な人びと、現実、社会への不信感、怒り、絶望でした。アレン・ギンズバーグの長編詩「吠える」はまさにそのやり場のない思いを叫びました。

ビートニクは同時代の現実にノーを突きつきつけましたが、ただ文句を言うだけではなく、自ら、自分たちが求めるものを探す旅にでました。彼らの文学の特徴はその活動をライフスタイルのレベルまで押し広げたところにあります。ポエトリー・リーディングでの即興性、メキシコでのペヨーテ(麻薬の一種であるサボテン)接種、インドでの瞑想、日本の禅寺での参禅、彼らはその活動において文学に限定されませんでした。そして、世界中を旅し、彼らが求めるものを探して転々としました。それは文学にとどまらず、ライブ感に満ちたカルチャーでした。



オン・ザ・ロード=旅の途中

ビートニクの王と呼ばれる作家がジャック・ケルアック(1922-1969)です。フランス系カナダ人の家庭に生まれ、フットボールの選手としてコロンビア大学に進学しました。入学後すぐに負傷してしまい、フットボールを諦めました。第二次世界大戦では船員として世界中を航海し、戦後は友人となったウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグらと各地を転々としました。


やつはハンドルを握ると、テキサスの外れまで爆走をつづけ、停まったのは一回きり、オゾーナの近くで、服をぜんぶ脱いで、ヤマヨモギのなかを素っ裸でヒャッホーとわめいて跳びはねたときだけだった。(中略)

「なあ、サル、なあ、メリールウ、おまえらもおれとおなじになれよ、服なんて重いものは取っちまえ―服なんてなんの意味がある? わかるだろう―おまえらのかわいいおなかをいっしょにお日さまに見せようぜ。ほれっ!」(中略)

メリールウは言われたとおりにした。(中略)メリールウはコールドクリームをとりだし、おもしろがって僕らに塗った。ときどき大型トラックとすれちがった。高い運転席にいたドライバーは素っ裸の黄金の美女が素っ裸の男二人にはさまれて座っているのを目撃した。(中略)車体が一瞬ぐらりとよろめくのがわかった。

(「オン・ザ・ロード」/ジャック・ケルアック、青山南訳、河出文庫)


誕生や死のさざなみが生じるのは純粋な精神の強さのせいだ、ともわかった。落ち着いた静かな鏡のような水面に風の動きが生じるようなものなのだ。甘い、揺れるような幸福感を覚え、静脈にヘロインをどっと注射したかんじだった。午後にワインをがぶ飲みしたかんじで、体が震えた。足がむずむずした。今すぐ死ぬんじゃないかと思った。
(「オン・ザ・ロード」/ジャック・ケルアック、青山南訳、河出文庫)


デンヴァーの黒人地区であるウェルトン通りの二十七丁目あたりの明かりのなかを歩いていると、黒人だったらいいのになあ、という気持ちになってきた、白人世界がくれるものは、どんなにベストなものでもエクスタシーが得られない、元気になれない、楽しくない、わくわくできない、闇がない、音楽がない、夜が足りない、と思えた。
(「オン・ザ・ロード」/ジャック・ケルアック、青山南訳、河出文庫)


オン・ザ・ロードはジャック・ケルアックの最も有名な作品で、出版されるとケルアックを一躍有名人に押し上げました。主人公はアメリカのそこらじゅうをうろうろ、ブラブラしていて、性的放縦、麻薬に耽溺します。文章は冗長でダラダラ続くのですが、ところどころ当時の若者の本音みたいなのがピカッとフラッシュする感じがまぶしいです。 引用した文章にあるように、若者は何か現状に物足りないのです。もっと面白いものがあるんじゃないか、わくわくできるものがあるんじゃないか、と思って彼らはウロウロ探し回っているのです。ビートニクのあり方の根っこみたいなものがここにあります。 自分たちのやりたいことのためには他人を気にしない、もう少しふみこんでいうと他人をちょっと驚かせてやろう、というような気配も感じられます。



そして旅は世界中の奇妙な場所で

ケルアックのオン・ザ・ロードはあくまでアメリカの中の旅でしたが、実際のビートニクはその後彼らの求めるものを探して、世界中に旅立ちます。インド、中南米、そして日本。それらの行動はその後ヒッピームーブメントや、ロック(ビートルズをはじめ、たくさんのミュージシャンがインド的カルチャーに影響を受けました。)など、たくさんの方面に影響を残しました。


火曜日の夜はずっとガンジャ飲みの聖人たちと、火葬場のあるガットで過ごした。靴を失ったために、跣で真夜中、陶酔状態になって、火葬されている死体やらもじゃもじゃ髪の死体の側を気狂いのようにさまよい歩いた。大いなる夜。これこそタントラ的な悟りの道だ。明晩は、コノラックのセックス寺院へ出発する…… ベナレス 1963年1月10日
(インドにて/「ギンズバーグ発言」/諏訪優訳、思潮社)


僕はまだプカルパ(注:ペルー中部の都市)にいます。(中略)
昨夜は、ガス工場の裏側にあるプカルパのジャングルの多い郊外の小屋に、三十人ばかりの男女が集まったオールナイトの定例の秘密集会に加わりました。
リマで飲んだものよりもはるかに強烈なのをはじめて経験しました。(中略)
僕は偉大な実在物ではないかと思われるものを見たように思いました。(中略)今でも思い浮かべられる唯ひとつのイメージは、神の鼻の巨大で黒々とした穴です。
(ウィリアム・バローズへ/「ギンズバーグ発言」/諏訪優訳、思潮社)


日本の伝統的な俳句“禅ポエトリー”もわれわれに影響を与えています。それはパウンドやウィリアムズのイマジズムと非常に似た側面があります。
これまでにわたしがいったことは、詩業が長いみじかいということではなく、長いラインにおいても、詩は鮮明なイメージで満たされなければならないということで、糞リアリズムをいうのではありません。
わたしとサンフランシスコでいっしょだった詩人ゲイリイ・スナイダーが日本に行っています。彼は日本語も支那語も話せ、京都で禅の勉強をしています。彼の住所はKonoecho, Yase, Sakyou-ku, Kyoto ですからいろいろなことで連絡し合ってください。
(諏訪優へ/「ギンズバーグ発言」/諏訪優訳、思潮社)


ビートニクにとって目の前の現実は本当の現実ではなく、本当の現実は西洋文明にとって未開の奥地あると彼らは考えています。西洋合理主義とは別の、真の人間にとっての必要な知識であるとか、認識への至りかたは秘密の伝統の中で脈々と受け継がれているのだ、そういう考えです。

彼らは麻薬を多用します。ただ、その使い方は現実世界からの逃避というよりも、彼らにとっての真理の追究のための手段としての意味合いが強いようです。彼らはドラッグ・エクスペリエンスを通して、そこで何を体験したか、それは宗教・哲学的にどのような意味合いに近いのか、を記録し、共有します。そのような姿勢はヒッピームーブメントにも引き継がれていきます。



その他主な参考文献:
「ケルアック」/バリー・ギフォード、ローレンス・リー/訳:青山南、堤雅久、中俣真知子、古屋美登里/毎日新聞社
「ギンズバーグ詩集」/諏訪優著/思潮社
「アレン・ギンズバーグ」/諏訪優著/彌生選書
「現代詩手帖特集版 総特集 アレン・ギンズバーグ」/思潮社

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後藤 大祐(ごとう だいすけ)

1979年生まれ、会社員をしながら詩や文章を書いています。著書「詩集 誰もいない闘技場にベルが鳴る」、2016年1月日本現代詩人会入会。2016年度「詩と思想」現代詩の新鋭。東京大学文学部英文科(2004年卒業)で英米文学・近現代詩の読みかたを学びました。スポーツはサッカーとボクシング、見るよりもやる方が好きです。最近もっとも興味があるのとんぺい焼きです。
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