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Ilustration by Shiori Hasegawa

Column_No.08
「現代詩」の成長記録 V
〜 イメージ、映像

現代詩は自由になった、と前回お話しさせて頂きました。西洋詩の翻訳⇒「思春期を思わせるような」モチーフの模索⇒同時代を同時代の言葉でうたうこと⇒自由な口語で詩をうたうこと、と明治時代の「新体詩抄」の創刊から、日本の近代化のスピードに合わせるように、40年であっという間に現代は今と同じ口語自由詩の形式にたどりつきました。

「近代」と「現代」の違いってなんだろう?と思います。江戸時代⇔近代+現代の間にはハッキリした差があるようです。和服⇔洋服、チョンマゲ⇔七三分け、和食⇔洋食、分かりやすいです。では近代⇔現代の違いって?昔風の洋服⇔ジーンズ?、七三分け⇔モヒカン風髪型?、洋食⇔ファーストフード?、違いがあるようでそこまで大きく違いはないような感じです。

「現代」とは「映像」のことでは?と考えました。たとえばコマ送りの記録映像→行進する日本軍の兵隊たち、銀座をセカセカ歩く人たち、日の丸を振り見送る人たち、南太平洋で煙につつまれる軍艦、爆弾を落とすアメリカのB-29、という過去のドキュメンタリー的映像から、あるいは、今の、映画、テレビのバラエティー番組、MTV、インターネットの動画、近代よりも現代の方が映像に縁が深そうです。近+現代のうち、映像が残っている部分が現代、そうでない部分が近代、なんて分け方もありだと思います。

今回取り上げる詩の時代は、第一次世界大戦が勃発、その後ロシア革命が起きたころです。世界は革命の機運にざわついていました。共産主義、無政府主義、テロリズム、世界のあらゆる街かどで不穏な空気がただよっていました。芸術の世界でも同様にあらゆる前衛的運動が起こっていました、キュビスム、フォービスム、シュールレアリスム、ダダイスム等々、多くの芸術家が革命家のように理想の表現方法、最先端の芸術を目指していました。絵画、彫刻、音楽、文学の色々な芸術分野同士の垣根が壊れはじめた時代でもあります。文字を書きこんだ生物画、便器に名前をつけて彫刻と定義する、言葉が意味をなさない文学、時代は刺激的に混迷していきます。

日本の現代詩も世界の影響を受け、かなり極端なところまでいきます。



高校を中退して上京した若者が「ダダイスト新吉」になった件


皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿
 倦怠
 額に蚯蚓(みみず)が這ふ情熱
白米色のエプロンで
皿を拭くな
鼻の巣の黒い女
 其処にも諧謔が燻すぶつてゐる
  人生を水に溶かせ
  冷めたシチユーの鍋に
 退屈が浮く
  皿を割れ
  皿を割れば
倦怠の響が出る。 

(49/高橋新吉/「ダダイスト新吉の詩」1923年(大正十二年))


これまで紹介したものたちとはかなり毛色の違う新鮮な詩です。この詩は皿という字をたくさん並べることで、皿洗い少年の前に皿がたくさん積みあがっている、閉塞的な気怠い単純労働の風景を表現しているといわれます。何よりも新しいのが、皿という字のビジュアルにこだわったこと、改行を多用することで詩自体にもビジュアル的な効果を作っていることです(前衛詩はフォントやレタリックを工夫することでポスターや絵画に接近します。)。

そもそも「ダダイスト新吉」という名前が新しいです。

ダダイスム(仏: Dadaïsme)は、1910年代半ばに起こった芸術思想・芸術運動のことである。ダダイズム、あるいは単にダダとも呼ばれる。第一次世界大戦に対する抵抗やそれによってもたらされた虚無を根底に持っており、既成の秩序や常識に対する、否定、攻撃、破壊といった思想を大きな特徴とする。ダダイスムに属する芸術家たちをダダイストとよぶ。(出展:Wikipedia)


愛媛県伊方町生まれの少年高橋新吉は地元の八幡浜商業高校を中退し、家出をして上京しました。東京で「ダダイスム」の存在を知り、日本で最初のダダイスト「ダダイスト新吉」になりました。上記の詩は皿洗いをしていた時の心境をあらわした詩といわれます。現代風にいえば、高校を中退して上京してパンクロックの存在を知り、日本で最初のパンクロッカーになって、「パンク高橋」と名乗った、ような感じでしょうか。

世界中で新しい表現方法が試される時代でした。コネも金も学歴もない少年新吉は「ダダイスト」になることで何ものかになろうとしました。この試みは成功します。新吉は後年、禅に傾倒し、「禅ポエムの詩人」として欧米で評価されました。パンクロッカーが長年音楽活動を続けて国から褒章を受ける、という成功ストーリ―。

口語自由詩の手法を手に入れてから「現代詩」は難しくなっていきますが、この詩も難しいです。この詩の言葉は意味を伝えることではなく、パッと見た時のイメージを重視しているようです。文章を読むというより、ポスターを見る感覚。読者はそのような鑑賞法を知らなければどう扱っていいか分からない。表現者が自由にふるまうほど、鑑賞者はとまどってしまいます。「ダダイスト新吉」の詩はパフォーマンスです。東京で埋もれてしまわないように、自分を表現できる、目立つことのできる方法を見つけたかった。同時代にパリで生まれたオシャレな表現方法をいち早くとりいれた少年。その後も地道に活動して世俗的な成功も手に入れたおじさん。そのような見方をすると、難解な「ダダイスト」も「なんか、いつまでも元気でやってるし、おもしろいおっさんだよね。」と思えてくる気がします。



目で見た詩/動画の発明


ビルディングのてつぺんから見下ろすと
電車・自動車・人間がうごめいている

目玉が地べたにひつつきそうだ

(瞰下景(かんかけい)/北川冬彦/「三半規管喪失」1925年(大正十四年))


女子八百米リレー。彼女は第三コーナーでぽとりと倒
れた。

落花

(椿/北川冬彦/「検温器と花」1926年(大正十五年))


改札口で
指が 切符と一緒に切られた

(ラツシュ・アワア/北川冬彦/「検温器と花」1926年(大正十五年))


とても映像的な詩です。もしかするとこれらの詩が発表されたときの読者よりも、今のわれわれの方が詩の情景をイメージしやすいかもしれません。

  • 高いビルの上から見下ろすと、はるか下に見える電車、自動車、歩行者→クローズアップする風景
  • 女子リレー選手が転んだ、ぽとりと落ちる椿の花とオーバーラップ
  • 改札されるキップ、切れ味のするどさ、指が切りおとされるような


どこかでそのような映像を見たことがあるような気がしてきます。

これらの詩、映像には意味はありません。作者はただ、日常風景の一瞬を切りとってみたかった、そのような表現を試した、そのような気がします。詩の中には特に(面倒くさい)思想や、主張というものは存在しません。あらゆる主義が生まれ、叫ばれていたこの時代にしてはある意味珍しいことかもしれません。ただ、その分だけ、今の時代ではわりとすんなり鑑賞することができます。

短く、イメージを重視した詩の形は、鑑賞する側にとってスッと入りやすい。なぜかと考えた時、これらの詩は和歌や俳句といった日本の伝統的な詩の形、モチーフに近いことに気がつきます。何気ない風景を短い言葉で切りとり、そのイメージには意外なほど広がりがあります。北川冬彦は詩や映像(映画)の世界から入り、日本の伝統的な詩形に近いところにたどりつきました。これはとても興味深いことだと思います。

今後の日本の現代詩の先を考えるうえで、とても重要な詩人だと個人的に思っています。



本編執筆にあたり、詩史に関し、「詩とは何か」/嶋岡晨/新潮選書、日本の名詩選1〜3/西原大輔/笠間書院、に勉強させて頂きました(近現代詩の歴史に関する勝手な解釈は筆者独自です。)。この場をお借りし、お礼を申し上げます。

pov_profile1
後藤 大祐(ごとう だいすけ)

1979年生まれ、会社員をしながら詩や文章を書いています。著書「詩集 誰もいない闘技場にベルが鳴る」、2016年1月日本現代詩人会入会。2016年度「詩と思想」現代詩の新鋭。東京大学文学部英文科(2004年卒業)で英米文学・近現代詩の読みかたを学びました。スポーツはサッカーとボクシング、見るよりもやる方が好きです。最近もっとも興味があるのとんぺい焼きです。
「カバンには詩集を」のバックナンバーはこちら。

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カバンには詩集を / 後藤大祐
詩人・後藤大祐さんが綴る連載コラム。一見して難しい印象を抱きがちな現代詩の世界を、軽快に、そしてわかりやすく解説。

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ダダイズム考:芸術は死んだ。ダダ万歳!
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