pov_06
Ilustration by Daisuke Hiratsuka

Column_No. 06
International Art Festival:
世界中の芸術祭を知ろう

5月下旬に新宿界隈を訪れたとき、道路に沿うようにして提灯が並んでいるようすを見かけました。街中を見渡すと、半纏を身にまとったイナセな方々がちらほら。どうやら花園神社の例大祭だったようです。残念ながらタイミングが合わずお神輿は見られなかったけれど、お祭りらしい空気感にすっかり胸が高鳴りました。

気候のいい夏に近づいてくると、お祭りムードも高まってきますよね。至る所で多種多様なお祭りが執り行われています。年齢・言語・文化を超えて、心を通じあわせられる素晴らしいイベントです。何も神事に限ったことではなく、例えば音楽好きならばフジロックやサマソニに代表される音楽フェス、ビールに目のないひとならオクトーバーフェストなど、皆さんも自分の興味をそそられるようなお祭りに参加したことがあるのではないでしょうか?

普段美術館やギャラリーで静粛に鑑賞するイメージの強いアートにも、実はお祭りがあるんです。一般的に「国際美術展(または芸術祭)」などと呼ばれています。開催時には気鋭のアーティストや作品が集結し、世界中から観客が押し寄せます。街そのものがアート一色に染まるのです。


二大国際美術展を比較してみよう

世界各地で開催される国際美術展のなかでもとりわけ規模が大きく、かつ注目度の高いものを挙げるとしたら、「ヴェネツィア・ビエンナーレ」と「ドクメンタ」でしょう。初耳の方もいらっしゃるでしょうから、両イベントの特徴を表にまとめ、比較してみます。

ヴェネツィア・ビエンナーレ   ドクメンタ
イタリア・ヴェネツィア 場所 ドイツ・カッセル
2年に一度 開催頻度 5年に一度
約6ヵ月 開催期間 100日間
ヴェネツィア・ビエンナーレ財団
(イタリア政府後援のNPO)
運営 ドクメンタ有限会社
(ヘッセン州とカッセル市の出資)
ディレクター 芸術祭の統括 芸術総監督(ディレクター)
ビエンナーレに対する包括的な権限 権限 ドクメンタの全責任を追う
あり:国単位でパビリオンを構成する 国籍という意識の有無 なし:テーマに応じたアーティスト選定
各国の展示企画者 テーマの設定 芸術総監督(ディレクター)
各国の展示企画者 アーティストの選抜者 芸術総監督(ディレクター)
あり 賞制度 なし
金獅子賞 優秀賞 なし
いかがでしょうか?一口に「国際美術展」といっても、その形式やスタンスは大いに異なります。
これから、それぞれの芸術祭の特色について触れていきましょう。



ヴェネツィア・ビエンナーレ:国威をかけて臨む芸術のオリンピック

Biennale_01 ヴェネツィア・ビエンナーレは、世界最古かつ、現在も継続している大規模な博覧会です。「ビエンナーレ」はイタリア語で「2年に一度の美術展」という意味、つまり開催頻度がそのまま名称になっています。 ビエンナーレ全体を統括する権限を持つディレクターを置く一方、国別に設けられた「パビリオン」が出展単位となります。パビリオンの構成は各国の展示企画者が担当し、彼らがアーティストを選定しています。展示企画者やアーティストの選定方法は国ごとに異りますが、往々にして公的機関が関与することが多いようです。 グランプリにあたる優秀者には、金獅子賞が授与されます。国ごとに競い合う形式は、「美術のオリンピック」とも呼ばれるゆえんです。

Biennale_03 これほどのビッグイベントの舞台ですから、美術史が大きく方向転換するような重要な局面を迎えることもあります。例えば、1990年の出来事に目を向けてみてみましょう。ドイツ代表にはベッヒャー夫妻が選出され、最終的に金獅子賞を受賞しました。 これは、初めて写真が現代美術史の文脈のなかで評価された瞬間であり、現代美術史における画期的な出来事と捉えられています。この後、いわゆる「ベッヒャー派」と呼ばれるアンドレアス・グルスキー、トーマス・シュトゥルート(ストゥルース)などの後継者たちもこぞって注目を浴びるようになりました。

Biennale_02 ヴェネツィア・ビエンナーレのもうひとつの特徴としては、新人・若手アーティストの登竜門的な位置付けの関連イベントが同時進行で開催されるということが挙げられます。 主会場とは別の「アルセナーレ」という会場で開催される「アペルト」部門がそれにあたります。 美術界のトップに君臨するビック・アーティストが脚光を浴びるばかりではなく、未来を担うであろうアーティストにもとびきりの舞台を用意しているなんて、素敵な計らいだと思いませんか?



ドクメンタ:街ごと美術展になる100日間

documenta_01 「国際美術展」の双璧をなすもう一方がドクメンタです。1955年に「第3回西ドイツ連邦庭園見本市」の一環として、アルノルト・ボーテの提唱により開催されたのがはじまりでした。ナチスによって退廃芸術とレッテルを貼られ弾圧されてきた前衛芸術の名誉回復を図ろうという目論見は国内外で大きな反響を呼び、その後現代美術の動向を反映する美術展としての地位を確立しました。

ヴェネツィア・ビエンナーレのような受賞制度はなく、その回ごとに任命された芸術総監督(ディレクター)がテーマとすべての参加作家を選出します。そのため、時代背景を踏まえた鋭い視線によって導き出されるメッセージ性が強いのが特徴です。例えば、1992年の冷戦崩壊後初開催となるドクメンタ9では、ゲント現代美術館(S.M.A.K)の初代館長としても知られるヤン・フートをディレクターに迎えました。設立当初は旧西欧や北米だけでなく、旧東側諸国・アジア・アフリカ・中南米など世界各地の作家が取り上げられ、より国際色の強いものとなりました。

documenta_02 また、現存するアーティストを選定するという取り決めがあるため、現在進行形での現代美術の動向を捉えるのにはうってつけの機会となることでしょう。 (※過去、例外的に物故者のアーティストが選出される回もありました。)

観客数は数を重ねるごとに増加の一途をたどっていて、直近の2012年に開催されたドクメンタ13では、この貴重なイベントをめがけて人口20万人程度のカッセルに世界中から約86万人もの人々が押し寄せました。 次回開催は来年2017年に迫っていますが、通算14回目となるこの回から新たにギリシャ・アテネとの2会場での開催が決まっています。



近年世界各国で開催される国際美術展は、ドクメンタのスタイルを踏襲し、芸術総監督を立てる方針を採るケースが増えています。日本でいえば、横浜ビエンナーレなどがありますね。2008年・2011年に開催された横浜トリエンナーレはとりわけ印象に残っていて、今でも当時のことを憶えています。横浜・みなとみらいに複数の会場が設置され、来訪者は巡回バスや徒歩で会場間をめぐります。大規模な会場で数多くの作品を観ていると人波に酔ってしまったり、最悪な事態として作品を見飽きてしまうこともあり得ます。けれど、複数の会場をめぐることで、気持ち良くリフレッシュできるのです。みなとみらいという臨海のロケーションも良かったのでしょうね。作品と対峙する非日常と、観光地という日常を行き来するので、それぞれで得た印象が刻まれていきました。

「美術館やギャラリーは敷居が高くて緊張する…」という方も、国際美術展という開かれた場ならば、きっとすんなり楽しめるはずです。今年なら、あいちトリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭などが予定されています。ぜひ参加してみてはいかがでしょうか?
錦 多希子(にしき たきこ)
錦 多希子(にしき たきこ)

1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、ライターとしてインタビューやコラムの執筆を手がける。2015年春にはフリーマガジンhueを創刊(編集・執筆担当)。旅行と暮らしの道具に目がない。
www.post-books.info

おすすめ書籍

Notes

Bernd & Hilla Becher(ベルント&ヒラ・ベッヒャー、ベッヒャー夫妻)

ベルントは1931年、ヒラは1934年、いずれもドイツ生まれ。給水塔などの工業的建造物を資料写真のように淡々と撮影し、同じ種類の別個体を組み合わせたタイポロジー(類型学)的アプローチを確立した。デュッセルドルフ芸術アカデミーでは写真のクラスを受け持ち、多くの有能な写真家を輩出した。

Andreas Gursky(アンドレアス・グルスキー)

1955年旧東ドイツ・ライプツィヒ生まれ。日本では2012年に大規模な巡回展が開催された。ライン川を撮影したダイナミックな作品は、写真作品における史上最高額の値段で落札された。

Thomas Struth(トーマス・シュトゥルート(ストゥルース))

1954年ドイツ・ゲルダーン生まれ。デュッセルドルフ芸術アカデミーでは、絵画はゲルハルト・リヒターに、写真はベッヒャー夫妻に師事した。都市景観・ジャングル・人物のポートレイト写真と幅広い作風を手がける。

Jan Hoet(ヤン・フート)

1936年ベルギー・ルーヴェン生まれ。1986年には市民がつくり手として参加する画期的な展覧会「シャンブル・ダミ(友人の部屋)」を企画し、一躍注目を浴びる。また、ワタリウム美術館での「視覚の裏側」(1991年)や「水の波紋’95」(1995年)といった展覧会の企画を手がけている。


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