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Ilustration by Daisuke Hiratsuka

Column_No. 05
Black Mountain College:
多くの巨匠を輩出したアメリカの革新的な美術学校

こんにちは。錦です。
先日の大型連休、いかがお過ごしでしたか?お出かけされた方、お仕事づくめだった方。それぞれの過ごし方をされたかと思います。わたしは仕事柄働くことの多い日々でしたが、なんとか時間を作って信州・松本へ行ってきました。奇しくも陶芸家のバーナード・リーチ展が開催されていたので鑑賞したのですが、彼にとってゆかりのある松本で観ることができてとても嬉しかったです。また連休最終日には、上野の東京都美術館で開催されている若冲展を観てきました。行列の末にようやく観ることができ、緻密な筆致にうっとりと魅了されました。

映画や小説に触れるとき、ストーリーが展開するなかで次第に登場人物の相関図が描けたり時系列が掴めるようになると、より深くのめり込めますよね。アートやデザインも同じようにして、あるキーワードを軸に掘り下げてみてはどうでしょうか?

今回は20世紀の現代美術史にとって非常に重要だとみなされている伝説的な美術学校「ブラック・マウンテン・カレッジ」に着目してみます。


戦争の波に呑まれたバウハウス、離散した後に各地で再び根付く独自の精神

Black Mountain College 20世紀の歴史を語るうえで、戦争は切っても切れない出来事です。当時を生き抜いたすべてのひとの運命を図らずも決定付けました。
1919年にドイツ・ヴァイマールに創設された芸術教育機関・バウハウスも例外ではありません。建築とデザインの融合を目指した総合的な教育プログラムは、ヨーロッパ全土へと影響力を拡大させていきました。しかし、次第にナチスから敵視されるようになり、とうとう1933年には余儀なく閉校へと追い込まれてます。

散り散りになった講師陣は、亡命したその先々でバウハウスのスタイルを継承した教育機関を創設する動きが生まれます。
バウハウスの再構築を図るモホリ=ナジ・ラースローは、1937年にシカゴで「ニュー・バウハウス」を設立。企業とのパートナーシップによりモダン・デザインを実現させようと目論みました。
バウハウス最後の巨匠と謳われたマックス・ビルはドイツ国内にとどまることを決め、戦後復興の文脈のなかでウルム造形大学の設立に力を注ぎました。

彼らとともにバウハウスで教鞭をとっていたヨゼフ・アルバースは、アメリカ・ノースカロライナ州に移住しました。1933年に開校となったブラック・マウンテン・カレッジの講師として招聘されたのです。
こうしてバウハウスの教育理念や方針が大陸を隔てたアメリカにもたらされ、ゆくゆくはモダンアートとデザインの中心地となっていきます。

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独特な教育方針

Black Mountain College: 多くの巨匠を輩出したアメリカの革新的な美術学校 アルバースは戦後アメリカの前衛芸術を決定付けたもっとも重要な人物とみなされていますが、その功績はブラック・マウンテン・カレッジの展開からも計り知ることができます。



アルバースの掲げた方針には、主に2点の特徴があります。第一に、全体的な教育を実践すること。学生たちには集合的な参加を求め、分析力を駆使して形やフォルムを重視するように、また物事を視覚化する力を培えるようにと説きました。第二に、規律的な枠組みをつくらないこと。評議会や学部長といったポジションを置かなかったといいます。格式張った組織図や肩書きに捉われない校風が、自由な創作を促進したのでしょう。教育機関でありながらも、双方向的なコミュニケーションと創造の場として発展していきました。

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錚々たる講師陣と、ここからはばたいていった生徒たち

Black Mountain College: 多くの巨匠を輩出したアメリカの革新的な美術学校 講師陣には、ビジュアルアーティスト・作曲家・詩人・デザイナーといった各分野の第一線で活躍したクリエイターたちが名を連ね、独創的な感性や表現力をもとに次世代の育成にあたりました。



そのなかには、独特な筆致が印象的な画家のベン・シャーン、「ジオデシックドーム」で知られるリチャード・バックミンスター・フラーなどがいます。特に音楽やパフォーマンスの領域での楽曲「4分33秒」が代名詞ともなったジョン・ケージが同校で企画したコンサートや講演は、鮮烈な体験として多くのひとの記憶だけでなく現代美術史としても重要な出来事として残りました。また、ロバート・ラウシェンバーグのように、当初は生徒として教えを請い、卒業後には講師となって帰ってくるということもありました。

ラウシェンバーグの勧めによって進学を果たしたサイ・トゥオンブリーは、同校で初めて写真を撮るようになりました。その彼の写真作品は、現在DIC川村記念美術館で開催されている展覧会で観ることができます。(2016年8月28日まで)余談ですが、実は彼の写真作品がとびきり好きなので、先日念願叶ってようやく同展を鑑賞することができました。写実的に捉えること以上に、美しいと感じたものを自分なりの表現方法であらわすことに重きを置いているような印象を受ける作品群は、まるで「写真という視覚的表現という形態を帯びた詩作品」のようでした。彼の豊かな感性と美的感覚にどっぷりと浸り、時を忘れてすっかり魅入っていました。



独学で知識や経験を培ったり、アトリエに籠って創作に打ち込むことももちろん大切な時間ではあるでしょうが、尊敬する師から教えを請うことや、志をともにする同士たちと切磋琢磨する環境があるということは、何事にも代えがたいことです。ブラックマウンテンカレッジのあり方や取り組みは、「環境がひとを育ててくれる」ということを教えてくれます。こんな革新的な美術学校が、今から80年以上前に存在していたとは驚くばかりです。

そういえば、わたしの周りの国内外で美術系の専門教育を受けたひとたちは、卒業後に例えば写真家とアートディレクターとしてタッグを組み、ひとつの仕事を成し遂げるというケースを見かけます。専門的な技能を活かして世の中に貢献できることはもちろん、共にいい仕事ができる仲間に恵まれているというのは、クリエイターとして大きな強みとなるはずです。

わたしは作家自身の世界が確立されている作品を目の当たりにすると、「あぁ、いい作品だな」と感動します。ご縁あって「こうなりたい!」と思う憧れのひとと出会ったとき、クローンのようにそっくりそのままを真似るのではなく、写経のように「型を習う」ことで新たな気付きを得ることや、尊敬するひとのスタンスから学んだうえで自分のやり方に落とし込むということが大切なことなのかもしれません。自分なりの世界を突き詰めたその先に、揺るぎない唯一無二の表現が花開いていくことでしょう。少しずつ、実直でユニークなクリエイターたちが育つような環境が増えていってほしいです。
錦 多希子(にしき たきこ)
錦 多希子(にしき たきこ)

1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、ライターとしてインタビューやコラムの執筆を手がける。2015年春にはフリーマガジンhueを創刊(編集・執筆担当)。旅行と暮らしの道具に目がない。
www.post-books.info

Notes

Moholy-Nagy László(モホリ=ナジ・ラースロー)

1895年ハンガリー生まれ。ユダヤ系ハンガリー人。教鞭をとるかたわら、フォトモンタージュなどの写真作品を制作した。

Max Bill(マックス・ビル)

1908年スイス・ヴィンタートゥール生まれ。彼のデザイン美学は、多目的使用を考慮した「ウルムスツール」に象徴される。

Josef Albers(ヨゼフ・アルバース)

1888年ドイツ・ヴェストファーレン生まれ。複数の正方形を規則正しく配置する構成の抽象絵画作品を制作する。

John Cage(ジョン・ケージ)

1912年アメリカ・ロサンゼルス生まれ。実験音楽家として、前衛美術に大きな影響を与えている。

Ben Shahn(ベン・シャーン)

1898年リトアニア生まれ。ユダヤ系リトアニア人として、アメリカに渡る。社会派リアリズム画家と言われている。

Richard Buckminster Fuller(リチャード・バックミンスター・フラー)

1895年アメリカ・マサチューセッツ生まれ。思想家としても知られ、独特の富の概念を持つ。

Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)

1925年アメリカ・テキサス州生まれ。ネオダダの代表的な画家とされる。

Cy Twonbly(サイ・トゥオンブリー)

1928年アメリカ・バージニア州生まれ。2015年には原美術館で平面作品を中心とする構成の個展が開催された。


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